歯周治療のコンセプト
歯周病は、40歳以上の80%の方が程度の差はあっても罹っているといわれています。歯周治療において基本となるのは、原因除去としてのプラークコントロールであり、それは筆者が歯科医になってからこれまで20年たっても変わっていない。
歯周病を進行させないためには歯科医療が治療中心の医療から疾病の予防、管理型の医療が変わることが重要であると、当院でも予防歯科に積極的に取り組んでいます。
プラークコントロールの大半は患者さんの日頃のセルフケアに負うことから、患者さんに定期管理のなかで、歯科衛生士や歯科医によって意識付けを促し患者さんにプラークコントロールを基盤にした歯周治療が重要であることを動機つけが非常に重要であると考えます。
インプラント治療と歯周治療は密接に関連していると言えます。患者さまの中には、歯を失い、インプラント治療を受けられたのですが、残された歯に対して歯周治療がなされておらず、歯周病が進行してしまっていて、抜け落ちる寸前の状態で、またそこにインプラント治療が必要なのか相談に来られる患者さまが少なくありません。
歯周病予防はプラークコントロールを基盤としたセルフケアと専門的プロフェッショナルケアが重要ですが、問題を残したままのメインテナンスでは十分とは言えません。メインテナンスしていく上で最も重要なことは、歯周病に関して進行させるかも知れない原因を、進行してしまう前に徹底して解決しておくこと、すなわち歯周専門治療が特に重要であると言えます。
当院では、10年後の口腔内の健康状態を意識した歯周診査、診断、歯周専門的治療計画を立案し行うよう心がけています。
歯周病が進行して、歯が抜けて気がついたらまたインプラント治療を受けられ、年とともに次第にインプラントが増えていったということが可能な限り起こらないよう、これ以上ご自身の歯を失わないためのインプラント治療、そしてご自身の歯の歯周病専門治療というものが伴ってこそいつまでも変わらない長持ちする治療であると思われているはずです。
歯科医療における歯周再生療法(Periodontal Regeneration Therapy)
歯周病によって部分的に失われた、歯根を支えている骨(歯槽骨)や、歯根膜という歯と歯槽骨の間にある付着器官は再生が可能になってきています。
さて、再生医療というと最先端のようですが、医療全般における再生医療は医科領域でも皮膚科、形成外科、整形外科の分野でも一般医療として現実化しています。歯科においても再生医療は最も適している領域であると言えます。これらの領域に共通していることは欠損の大きさが小さくかつ生命維持に直接関連していない、QOL(Quality Of Life)的な側面が多い疾患が対象になっていると言えます。例えば心臓とか肺といった生命維持に必要な臓器の再生では、血管構築などを含んだクローン再生が必須といった臨床的大きな課題があることは想像がつくと思われます。まさに現実問題として生死に直接関連する疾患はハードルがまだまだ高いことは当然であると言えます。歯科領域における疾患はこの点からしてもまさしく最適な分野であり、長い歴史的研究を経て歯科医学、歯科医療の歴史を大きく変えた歯周治療学の歴史に燦然と輝く功績であると言えます。
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■歯周再生治療の誕生
組織再生の3要素は「細胞」、「増殖因子」、と「足場」であります。このなかで足場(スキャフォールド)が最も基本になります。歯周炎によって生じた歯槽骨骨欠損部の空間に骨が再生される(骨伝導能)、すなわちそこに骨が新生されるまでの間、他の組織が侵入してこないようにスペースを維持させることが必要です。
そこで歯肉組織を遮断する遮断膜を用い、母床骨から新生骨が再生させる骨誘導再生療法(GTR: Guided Tissue Regeneration)が1995年頃誕生しました。
非吸収性、吸収性GTR膜を歯根と歯槽骨に覆うように置くことにより、歯肉上皮の侵入を排除して歯根膜細胞を誘導して、結果として歯槽骨の再生と歯根膜線維性結合の付着が可能となり、再生の足場を用いた再生治療が科学的に確立しました。
対症療法から原因除去療法そして今日の再生療法
歯周治療の歴史を振り返ってみると、昔は他の疾患と同様、疼痛があればそれを軽減する、歯肉が腫れたら切開して膿を出して腫れを抑えるといった対症療法から始まった。現在でももちろん対症療法は生き続けています。その後、歯肉炎、歯周炎の原因論に関して研究がなされて、歯肉縁上プラーク(歯肉溝上に付着したプラーク)と歯肉縁下プラーク(歯肉溝内の歯周ポケット内に付着したプラークや歯石)の歯周病原菌(細菌)を減少、除去するいわゆる原因除去療法が確立しました。歯周病原菌(細菌)が繁殖する棲みかをできるだけなくしていくために歯周ポケット除去療法による切除療法が歯周病の確定的外科処置として術式が確立されています。 そして近未来は歯周病によって失われた患者さんを元に戻すといった再生療法へと向かっています。
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![]() 写真:Gore Tex Regenerative Technology? より引用 |
歯周再生治療の発展
GTRは16年以上の臨床的歴史のなかで、当初の欠点が改良され発展してきました。当初は非吸収性膜が用いられ、歯肉弁で覆われたGTR膜が術後露出してきたりして感染を起こしたり、再生が起らなかったりする合併症の問題がありました。GTR法は画期的な手法として当初は期待されましたが、適用症の選択や、術者の技術的な技量の差で結果が左右される問題がありました。
通常の歯周外科処置でも数ミリは再生することに比べるとGTR法は欧米などの歯周病専門医以外の技術では、一般の患者さんが実感できるほどの大きな差がなかったとも言えます。
しかし、歯肉弁で確実にメンブレンを覆うフラップデザインの改良、軟組織を温存させる切開線の手法など専門医らの研究によってGTR法の成功率は確実に向上してきました。
しかし、今日では足場だけの再生療法では限界があることがわかり、スペースメーキングとして歯槽骨欠損部に人工骨材料を充填したり、骨再生を促す増殖因子であるタンパク酵素や、骨誘導成長因子などの薬品を併用して、予知性の高い歯周再生療法が確立してきました。
さらにインプラントにおける骨再生[GBR法)などのテクニックはこのような歯周再生治療のコンセプト、手術技術が、基本となってインプラント治療における骨再生などのテクニックに応用されています。
逆に言うとインプラント治療では歯周外科治療などの専門的技術などが非常に重要な技術であると言うことが言えます。
歯を支える歯周組織が炎症をおこし、それが進行すると歯を支える骨が吸収されてしまいます。
※歯周組織とは、歯肉、歯根膜、歯槽骨、セメント質の4つの組織の総称です。
吸収し、乏しくなってしまった歯槽骨は、歯周病が治っても残念ながら元のようには回復しません。なぜなら、骨よりも歯肉のほうが回復するスピードが速く、本来骨が回復するはずのスペースが歯肉で埋まってしまうからです。
(余談ですが、骨の部分が少なくなった上に歯肉がかぶさってしまうので、歯周病にかかったことがある人は、歯肉の位置が下がり、歯が長く伸びたように見えることが多いのです。)
歯を支える骨が乏しくなった状態では、インプラントの土台として十分でない場合があります。
そこで、歯周組織(骨)を回復するために行われるのが、GTR法です。
歯と歯肉の間をきれいに清掃して、その後、骨を再生したい部分に人工の膜を入れます。
膜で覆うことで、骨が回復するまで歯肉が入ってこないように、スペースを確保します。
土台となる歯周組織の状態が悪いために、インプラントができなかった人でも、歯周組織を回復することで、インプラントが行える場合があります。
![]() 画像提供:Straumann社 |
GTRと同じように、歯周組織を回復する方法として、エムドゲイン法もあげられます。 歯肉の中にエムドゲイン ゲル(歯周組織再生誘導材料)を挿入し、骨が再生するスペースを確保します。 エムドゲインゲルは、歯周組織の再生を促しながら、吸収されていきます。 挿入のための、一度だけの外科処置で済むのが特徴です。 |
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エムドゲインの主成分は、エナメルマトリックスデリバティブというタンパク質で、子供の頃歯が生えてくる際に、重要な働きをしてくれる成分の一種です。
この成分の作用により、歯周組織の再生が促進されます。
エムドゲイン法はゲルを挿入する治療のため、再生できる範囲は、膜で覆うGTR法のほうが広くなります。
GBR法、GTR法、エムドゲイン法、そのいずれも、骨や歯周組織を再生させ、インプラントを行うのに十分な「土台」を作る効果的な方法ですが、再生できる骨量には限界があります。
歯周組織を健康に保つことは、インプラントを行うためにも、健康な自分の歯を守るためにも、大切なことです。
歯や歯周組織を健やかに保つために、毎日の適切な歯のお手入れと、歯科医院での定期的なチェックをおすすめ致します。
糖尿病慢性期合併症には、糖尿病に特有な細小血管障害である。
1. 網膜症
2. 腎症
3. 神経障害
4. 糖尿病によって加速される大血管障害(脳、心血管、閉塞性動脈硬化症)
5. 骨減少症
などがあげられるが、最近第6の合併症として歯周病が注目されています。
重度な歯周病があるほど、脳梗塞や心筋梗塞が起こりやすいことや、歯周病の進行が著しい方で重度の糖尿病患者では心臓死、腎不全死の割合が高いことが報告されています。
一方、動脈硬化の原因として高血糖、脂質異常、高血圧、肥満、喫煙が知られていますが、これらはインスリンの働きを阻害してインスリン抵抗性という状態を引き起こして、これが動脈硬化につながるとされています。
最近の研究で、糖尿病では歯周病特有の細菌であるP.gingivalisに対する抗体値が有意に高く、しかも炎症のマーカーであるCRPと有意の相関を示すため、P.gingivalisは糖尿病の慢性軽微炎症の原因菌として無視し得ないと考えられています。
さらに、頸動脈狭窄率はP.gingivalis抗体価高値の群で有意に高いことや、腎障害の進展をしめすマーカー、尿中アルブミンも抗体価高値の群で有意に上昇していることや、歯周ポケットの深さと延焼進展因子(血清腫瘍壊死因子、TNF)の活性の間に相関関係がある、などが明らかにされてきています。
このように、糖尿病状態で歯周病が顕著に進行するだけでなく、歯周病が糖尿病患者の血糖コントロールを悪化させたり、血管合併症の進展に大きな影響を与える可能性が濃厚であることが明らかにされてきています。
糖尿病と歯周病は相互に影響を及ぼしあい、両疾患の病態を複雑に修飾し合っていると言えます。
糖尿病も歯周病も特に顕著な症状を引き起こさないまま、深く静かに病状が進行していくことも似ています。
日頃から、定期的に歯周病検診を受け、予防に心がけるとともに、歯周病的問題が見られる場合は早期のうちに治療を受け解決しておくことが大変重要です